[後編]美味しさの裏に、岡山の料理旅館あり

No.38のクオリティを支える、
つくり手のみなさんにお話を伺っていく本企画。 
前回は製造元の『しげや旅館』さんについてお届けしてきました。
後編では、No.38の製造工程やこだわりについて、
たっぷりお届けしていきます。
工場長の朝は早い。
冬場になると雪が積もるため特に早い。

朝5時に起きて自宅前の雪かきをして、8時に工場に着いたらまた雪かき。しかも運送会社の車が入れるように、けっこうな範囲の雪かきをするそうです。缶詰の製造前にひと仕事を終えた感もありますが、本当に大変なのはここからです。

服を着替えて手洗いをして、靴を履き替えて工場に入ったら、まず冷蔵庫の温度をチェックします。そして、一連の製造準備ができているかを確認し、朝礼で一日の製造内容を打ち合わせしたら9 時から一斉に製造スタートです。
「今では一日に製造を3回転できるようになったんですけど、製造をはじめた当初は考えられないことでした。だって、この贅沢で高級な鯖缶は、製造の手間も贅沢にかけないとつくれない商品ですから」
工場長の杉本さんの言葉通り、No.38 はどの商品も製造工程が複雑で、しかも0.1g 単位で調味料を調整する必要があるため、繊細な作業が求められます。

その複雑な製造工程を順番にご紹介していくと、最初の鯖の下処理からすでに手が込んでいます。

まずは、脂がのった極上のノルウェーサバをフィレ状にカット。丁寧に骨を取り除いたあと、部位ごとにカットしていきます。最高の状態で缶詰にするために、鯖は必ず製造当日に切るそうです。

鯖を切り終えたら、半身まるごとを缶に手詰めしていきます。缶を開けた時の見た目も考慮してきれいに並べつつ、すべての部位がちゃんと入るように分量をはかって詰めていきます。
「実は、鯖を手詰めする時は右手しか使いません。なぜだかわかりますか?」

ここで、突然の工場長クイズ。
右手だけで鯖を詰めることに、どんな理由が隠されているのか?答えを考えようにも「左手はそえるだけ」という名言ばかりが頭に浮かび、一向に答えがわかりません。

そんなNo.38 スタッフの思考を察知したのか、工場長がすぐに答えを教えてくれました。
「鯖を持った手で缶に触れると缶の外側に鯖の脂がついてしまうので、鯖を扱うのは右手、缶を持つのは左手と決めているんです。缶に脂が付着してしまうと、出荷した後に汚れのように浮き出てきて、なかなか取れなくなるとお聞きしたので」
そうです。この脂の付着問題は製造をはじめた当初はよくあり、納品された缶詰を1 缶ずつNo.38 スタッフが総出で拭き上げていました。汚れの件を『しげや』さんに伝えたところ、どんどん改善されていったのですが、こんなに細かいオペレーションにまで落とし込んでくれていたとは……。

「脂がのった上質なノルウェー鯖を使っているので、脂が手につきやすいんです。でも、最初は汚れの原因が何かわからず、いろいろと作業工程を見直していった結果、いまの方法にたどり着きました」
まだ缶に鯖を詰めただけなのに、何という作業量でしょう。部位ごとに、しかもきれいに、分量も均一に、缶の汚れにも気をつけながら手詰めしてくれているという事実に頭の下がる思いです。
そして、いよいよ蒸し工程に入ります。No.38 は2 度蒸しを採用していて、1 度目の蒸し工程で鯖の余分な脂やアクを落とし、鯖特有の生臭さを抑えるようにしています。

この時、缶の外に鯖がはみ出ていると脂が缶に付着してしまい、右手だけで鯖に触れる理論が無駄になってしまうので、蒸し器に入れる前にもう一度入念にチェック。加熱温度や時間にもこだわり、鯖の身が崩れない絶妙な加減で蒸しあげたら、余分な脂とアクを捨てていきます。

おもむろにフライ返しを手に取る工場長。
「鯖を炒めるわけでもないのに、なぜフライ返しが置いてあるんだろう?」と、ずっと気になっていた謎がここでようやく解けました。

「これ、便利でしょ笑。フライ返しを使って脂とアクを捨てれば缶が汚れないんです。たまに脂やアクが多く出ることもあるので、そんな時は別に蒸しておいた尻尾の部位を入れて全体の分量を合わせます」
丁寧すぎる1 度目の蒸し工程が終わったら、次は細心の注意を払いまくる調味料や具材を入れる工程です。

すべての調味料と具材を0.1g 単位で計量しながら入れていき、缶を開けた時の見た目も計算して、具材の配置を調整します。
入れ忘れや分量の間違いが起こらないように、全員が黙々と作業を進めていくので、急にピンと張り詰めていく工場内の空気。いつもは楽しげに話す工場長も『しげや』の女将も、この時ばかりは一言も話さず作業に集中します。

そうなんです。実は、『しげや』の女将も缶詰工場を手伝ってくれているんです。だから、『しげや』の繊細で丁寧な手仕事の心が缶詰製造にも反映され、自然と質の高いものが出来上がるんです。
すべて詰め終わったら、巻き締め機で缶に蓋をして最後の仕上げ蒸しに入ります。

調理だけではなく殺菌の工程も含まれているので、圧力釡のような専用の蒸し器で2 時間ほどかけて仕上げ蒸しを行います。蒸している間に清掃や賞味期限のシール貼りなどをこなし、缶詰が蒸し上がったら缶についた水滴を丁寧に拭き上げて、ようやく一連の製造工程が完了です。
最後に「ゴム手袋に水を入れるんです」と工場長。
こうすることで、手袋が破損して缶詰に混入していないかをチェックするそうです。

「他社の工場で手袋の破片が混入していたというニュースを見て、こうするようにしました。HACCP(ハサップ)に対応している工場なので、元から異物が混入しないように衛生管理などを徹底しているんですけど、念には念を入れています」

蒸し時間や温度などのデータもすべて記録・保管していて、全缶詰のトレーサビリティも完璧。安全面においても細部まで徹底したこだわりを発揮してくれるので、製造をお願いする側としては本当に信頼できる工場です。
「どの商品も本当に手がかかるんですけど笑、いちばん大変なのは『炙り鯖のショウガ醤油仕立て』ですね。炙る時に身が反り返えらないように、皮目が破れてしまわないようにと細心の注意を払います」

そう明るく話す工場長の言葉に、感謝と申し訳ない気持ちの入り混じった顔をするNo.38 スタッフ。「本当にいつも申し訳ありません!」と謝罪しそうになった時、工場長が続けた言葉に心が救われました。

「製造するのが難しい商品ですけど、それだけやり甲斐も感じています。徹底したこだわりが味や見た目にちゃんと表れる商品なので、お客さんの喜ぶ顔を想像しながらつくれますし、少しでもクオリティを高めたいと常に思っています。おかげで、私たちの製造レベルもアップさせることができましたしね」
こんなことを言われると、もはや工場長の姿は溢れんばかりの後光によって見ることができません。ありがたい話をしてくれる工場長に別れを告げて、No.38 スタッフは再び『しげや』さんへと移動しました。
ということで、後半で終わる予定でしたが、『しげや』の女将や社長のお話を次回もう少しお届けしたいと思います。

後半のおまけへつづく。
取材協力:
しげや旅館 / 株式会社しげや
ADDRESS:岡山県真庭市美甘3982  TEL: 0867-56-2019
株式会社しげやの缶詰ブランド「山の宝」
http://shigeya-mikamo.com/

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